- 2019年02月01日17:00
15年以上前の夜、救急車で運ばれた私を恐怖させた当直医の無慈悲な所業
友人が、ブリを捌こうとして自分の手を捌いてしまったそうです。腱を切り、手術。包帯ぐるぐる巻きの手の写真がSNSにアップされ、それはもう心配なわけですが、ふと頭をよぎる、自分が同様に腱を切った事故の思い出――
クッソ、何だあの医者! と、今更のように怒りが湧き出て来たので、ここで書いておこうかなと。
もう15年以上も前でしょうか。私はセブンイレブンで買い物をした帰り、アイスをパクつきながら、マンション玄関のガラス扉を開けようとしました。アイスバーと買い物袋で両手がふさがっていたので、その扉を、足でぐいっと押したんです。
すると、扉は開かず、ガラスがパリン。俺の足ズボォ! 割れたガラスの鋭利な先がザクゥ! 足首に10cmほどの深い傷。こりゃやべえと救急車を呼んだ、深夜3時。
救急病院に着くと、今の今まで寝てましたよ〜って感じで目をこすりながら出てくる当直医。
足の甲が上がらない私の足を見て、「あー、これ腱が切れてるね〜」と、細く尖ったフックを持ち出して来る。
私もけっこう冷静なもので、ぱっくり開いた足首の傷に、案外血が出ないものだなと、深い割れ目に肉の断面を見ていると、当直医はその割れ目にフックを突っ込んだ。
その傷の中からカギ状のフックに、細く白い糸を引っ掛けて、医者は引っ張り出す。
「これが、腱ね」と、医者は言い、ビヨンビヨンと跳ねる腱を見て、ギターの弦みたいだなと俺は思った。
「これがもう一本切れちゃっててね、キミの甲は上がらないんだねー」
「というか、そんな引っ張ったら残ったほうも切れちゃいますよ」
「いや、これくらいなら切れないよ。腱は相当丈夫でねー」
「へぇ」
ここまで、麻酔はないです。不思議と痛みがないのは、深手を負ったショックで脳が麻痺していたのかもしれない。
ただ、『グラップラー刃牙』でよく見る肉の断面が、リアルに自分の傷として今目の前にある。血も意外と出ていない。当時はまだコンビマンガ家だった私は、こりゃいい資料、いい経験だとマジマジ観察していると、当直医はフックでまた別の白いものをつまみ出す。
「え、先生。そっちは……」と俺が言い切る前に、当直医は、その白いものをフックで弾いて飛ばし、床に捨てた。
「!」――おいおい、この医者、俺の腱をほじくり出して捨てやがった!!! と、さすがに俺もビックリ。医者に怪我を深手にされたと、意味がわかんなくて青ざめた。
絶句していると、当直医は「?」と何でもないように俺を見て、こう言った。
「あ、今のはね。脂肪だよ」
皆さん、想像してみてください。サラミの白い粒。脂。今思えば、当直医に捨てられた俺の脂肪は、あの粒みたいなものだった。
てゆーか、脂肪だからって何も言わずにつまんで捨てるかな〜!? なんだ、あの当直医。
* * *
その晩というか、早朝というか、応急処置に留まって、即入院。
寝て起きて、正式に手術。
下半身麻酔をかけられて、切れた腱の縫合が施されたが、ギターの弦ほども張ってるような腱が切れたんです。切れた腱はゴムパッチンのように奥に引っ込んでしまっていたので、まずはそれをほじくり出す手術。
当初ガラスで切った傷は10cmほどだったのに、その長さは倍以上に伸び、俺の足首を中心に縦一直線に開いた傷は、糸ではなく医療用ホッチキスで留められた。
「糸よりも早いし、炎症も起きにくいんだよ」と説明されたが、ホチキスを誤って指に刺したりしますよね。あれが足首の傷に沿って10個以上も並んでいるんですよ。
すげえ面白い。
今ではもう色はうっすらしていますが……
でもこの怪我と手術、そして当直医の腱ビヨンビヨン傷チェックの経験のせいか、人体ってロボットみたいだなと。あるいは操り人形、というかものすごく単純な構造。糸(腱)が1本切れただけで動かなくなる。
繋いだだけで、もとどおり。
バイオメカ、サイボーグ。俺がSFに登場する“機械の身体”に対して、意外と身近なものを感じて感情移入しちゃうのは、そういう経験があるせいかもしれない。
* * *
……なんて自分の怪我語りはともかく、手の腱を切ったNさん。彼はプログラマーなんですけど、キーボードが叩きにくくて仕事にならないかもと心配しているし、周囲も心配しています。
お大事に……。
皆さんも包丁の扱いには気をつけましょう。特に手を使う仕事の人は。
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