- 2017年12月24日12:00
歌舞伎で“落語”！？十二月大歌舞伎『らくだ』観劇記
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この12月、落語の大ネタ『らくだ』が歌舞伎バージョンで観られたなんて……。
銀座・歌舞伎座の12月の公演。三部構成の第二部の2編は『らくだ』と『蘭平物狂』。
千秋楽も近い23日（土）に鑑賞して来ました。
『らくだ』は上方落語の大ネタで、長屋の嫌われ者（通称・らくだ）が、ふぐ毒に当たって亡くなっているところから始まります。
らくだの兄貴分のヤクザ者が、近隣の住人や長屋の家主から「葬式を出す」名目で香典をせしめようと、たまたま通りかかった屑屋をおどしすかして、家主に使いにやるが、目論見はうまくいかず、らくだの屍体を屑屋に持たせて家主宅へやって来て、らくだのかんかんのう（看看踊）を踊らせて見せ、脅しにかかる――
という、前代未聞の、主人公のひとりが登場から最後まで「死人」という噺なんですが、あれ？ 最近同じような映画を観たような……
『スイス・アーミー・マン』の元ネタは落語の演目『らくだ』だった……！？「奇想天外な青春・サバイバルアドベンチャー」とキャッチコピーが入っていますが、予告編を見た限り、ハリー・ポッター役でお馴染みのダニエル・ラドクリフが全編通して“死体”役という謎のコメディ
というのは冗談としても、かんかんのう（看看踊）を踊らせて、（脅しの）役に立つ“らくだ”の屍体。
スイス・アーミー・ナイフのようにサバイバルの役に立つ、ダニエル・ラドクリフの屍体。
本来は静かに安置すべきものを、不謹慎にも“道具”として大活躍させるシチュエーションは、どちらも同じ。古今東西、不謹慎なことって飛び道具的に面白いんだな、なんて共通点を見出して、ちょっとニヤリとしてしまいました。
なお、26日が千秋楽となる十二月大歌舞伎、第二部の前半『らくだ』は、そんならくだの兄貴分のやくざ者に振り回されるかわいそうな屑屋を、歌舞伎俳優・市川中車が演じます。
私自身、43歳目前となって、今年初めて歌舞伎を観に行く機会があり、今回が人生2度目。
歌舞伎俳優や歌舞伎の演目などほとんど人生で触れて来なかったので、不勉強過ぎて今さらながら「えーっ！？ そうだったの！？」とびっくりしたんですが、市川中車って、俳優の香川照之さんだったんですね。
2016年の邦画『クリーピー 偽りの隣人』ではサイコがかった怪しい隣人を演じ、悪役に磨きがかかる一方で、
NHKの昆虫番組でカマキリ先生役となり、昆虫大好きおじさんという朗らかなキャラも見せる香川照之さん。
落語『らくだ』の屑屋は、災難に巻き込まれるマヌケで愛すべき市井の人でありながら、大家からせしめた酒をやくざ者に無理やり振る舞われ、豹変。酒癖の悪さがやくざ者を上回るというキャラ変が見どころであり、おかしみ。
市川中車こと香川照之さんの、その怪演を生で観られたのはいい経験。
ひとりで演じ分ける落語の演目を、映像化したり演劇にしたりというのは無粋、という考え方もありますが、そこは歌舞伎。
やくざ者の見得切りが入れば拍手が湧く。数人で演じるので舞台の上手と下手で同時に2つの“事件”が起こり、笑いが起きる。
そもそも落語では“想像させる”らくだの屍体の動きがおかしみのひとつですが、らくだの屍体も人形ではなく、片岡亀蔵さんが演じるので、動きがいい。
屍体の動きがいいという言葉は矛盾しているようですが、踊り踊らされる屍体というのは、それだけでやはりタブーな感じで笑っちゃうんですよね。
歌舞伎ならではの面白さもきちんと盛り込まれており、後半の『蘭平物狂』も含めて楽しい3時間を過ごせました。
古典芸能でしょう？ 解説聞きながらじゃないとわからないんでしょう？ と、40年以上避けて来た歌舞伎ですが、いざ生で観る機会があると、江戸時代より綿々と“芸能”として続いて来た底力を感じ、逆にみんなもっと観るといいよと思った。
その入口として、『らくだ』はわかりやすく面白い演目だったと思います。
銀座・歌舞伎座で上演中の『十二月大歌舞伎』は26日（火）が千秋楽。もう数回しかチャンスはありませんが、クリスマスに予定が空いている方、早くも仕事納めしてしまった余裕ある方。
15時〜18時の第二部『らくだ』『蘭平物狂』行ってみてはいかがでしょうか。
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