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あなたの暮らしのためになる(?)漫画原作者・猪原賽が発信する中央線ライフブログ

  • 12:00

【中野思い出語り】ラーメン屋台があった頃の北口ロータリーのビッグイシュー販売員のおっちゃん

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中野駅北口ロータリーがこんなにキレイになる前。夜中ラーメン屋台が出たり、見事に雑誌を広げてちょっとした露天商風に威勢よく「ビッグイシュー」を売るホームレス販売員がいた頃の話。


ホームレス減少、赤字続きのビッグイシュー「最終ゴールは会社がつぶれること」

なんらかの理由でホームレス状態になった人が、自立を目指して路上で販売する雑誌「ビッグイシュー」(月2回刊)。東京や大阪など都心部の駅前などを中心に、人通りの多い場所で売られている。


もともとは、イギリス発祥の雑誌で、日本版は2003年から、大阪にある「有限会社ビッグイシュー日本」が発行している。最盛期は1号あたり約3万部を売り上げていたが、現在は2万部を切った。ビッグイシュー社は昨年、一昨年度と2年つづけて赤字となっている。


部数減少の背景には、路上生活者の数が減ったことがある。同社代表をつとめる佐野章二さんは「赤字を解消したい」としながらも、「最終ゴールは、会社がつぶれることだ」と話す。一体どういうことなのか、佐野さんにインタビューで聞いた。(弁護士ドットコムニュース・山下真史)


 そんな中野の風景を思い出したのは、弁護士ドットコムのこのインタビュー記事を読んだため。

 ビッグイシューの部数減少は「路上生活者が減ったため」と代表がおっしゃる一方で、ホームレスの自立を目指すという目的で発刊してきた14年間、販売員が実際に家と仕事を得た実績は1割ちょっとというリアル。
 そんな数少ないホームレス脱出者こそ、中野北口でビッグイシューを売る販売員の方でした。

* * *

 まだ中野のロータリーがキレイになる前、ラーメン屋台が出ていた頃。
 夕方、友人を待ってロータリーのベンチに座っていた私は、突然声をかけられました。
 顔を上げると、そこにはラーメン屋台の親父が、屋台を引いてまさに下ろそうとしていたところ。
「どけ」と、屋台の親父はぶっきらぼうに私に言い、その不機嫌そうな顔と乱暴な言葉に、
「あ、はい」と私はびびってベンチから腰を上げ、しかしロータリーを離れるわけにはいかず、ちょっと離れた場所で立ち尽くした。

 屋台の親父は、サクサクと営業のための準備で、屋台を席を設営していく。
 その様子を見て、先にそこにいたのは俺だ、いつも営業してるからってお前にそこを優先的に使う特権でもあるのか(※)と、ちょっとムカッとしましてね。

 その私の心の声を聞いてか、「あいつ、公共の場を我が物顔だよな」と私に声をかけてきた人が、ビッグイシューの販売員のおじさんでした。

※あるかもしれませんね。非公式的な。

* * *

 ビッグイシューの販売員さん、今でもよく街で見かけます。たいてい最新刊を手に、立っているだけですよね。
 そんな彼らを見て、売れてるのかなー、と心配になったりします。

 一方、当時私に声をかけてきたその販売員さんは、最新号は確かにその手に持っていますが、キャリーカートを支柱台とし、針金棒をくくって広げ、そこにバックナンバーを詰めたプラケースをぶら下げ、さながら露天の雑誌商。
 声も高らかに、通りかかる通行人に熱心に営業をし、実際、足を止めてビッグイシューを買うお客も多かったと思います。

 友人を待っていた暇な私は、そんな彼に声をかけられたのをきっかけに、ちょっと話をしてみたんですよ。
 商品の広げ方、陳列が見事ですよね、みたいなことを言ったと思います。すると彼はこう言った。

「他の街の販売員を見に行った事あるけど、皆売る気がないんだよね。ただ雑誌持って突っ立ってるだけで。雑誌が売れりゃ、半分俺の収入なんだぜ。声も出さなきゃ近寄ってもらえない。見映えよく陳列しなきゃ、客の目を引かない。そのために俺は、陳列する工夫をこんなにした。ケースや針金なんてダイソー行きゃ安く買える。そんな先行投資もしないから、連中は売れないんだ」

 どうも彼にとっては不甲斐ない、販売員仲間達への苛立ち。
 確かに、売れてなさそうな販売員はほかの街でよく見る。むしろこの中野のこの販売員さんが営業に熱心に見える。販売員さんにもいろいろあるなあと思っていると、彼はふと笑って、

「でも俺、仕事が決まって、家も決まりそうでさ、もう販売員をやめるんだよ。だから後に残す仲間がうまくやれるか心配で……」

 冒頭記事にあった、ビッグイシューの戦略理念――ホームレスの自立を目指す事を、まさに成功させた、約1割の中の、彼。
 残りの9割の、自立かなわずビッグイシュー販売員も辞めていく仲間達への心配。

「ビッグイシュー」が日本に導入されて14年。代表は「ホームレスが減っている」「会社が潰れることが最終ゴール」とは言いますが、ただ商品を預けて(※)販売員の自主性に任せて来たことは、正解だったのか。

 また、14年も続いたとも言える一方で、逆に時間が経過し過ぎ、最初日本に導入された際の理念を知らない若者も出て来ています。
 実際、上掲の記事をFBでシェアしたところ、
「初めてビッグイシューのビジネスモデルを知った。駅前で見かけて、その辺から拾ってきた中古本を勝手に売ってるのだと思った(だから彼らに近づかなかった)」という反応さえあった。

「全国のべ1728人が登録して、実際に販売者となった人のうち、189人が新しい仕事を見つけて住居も得て」いるという数字――成功率約1割は、ほんとに最終ゴールへの過程にあるのか。

※実際は預けているのではなく、1冊170円で卸売りし、販売員は350円で売り、1冊あたり差額の180円が販売員の収入になる。

* * *

 いろいろな街で、ただ無言でビッグイシューを持って立っている販売員を見るたびに、かつてまだ屋台が出ていた頃の中野北口ロータリーの熱心な販売員、約1割の数少ない、ホームレスを脱出したビッグイシュー販売員だった彼のことを思い出すのです。

 彼は今、何やってるだろうか。元気に働いているだろうか。

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