- 2016年01月15日12:00
必読!「真説・長州力」は長州力への賞賛も非難も包み隠さず書き尽くしたプロレス全史である
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漫画原作者の猪原賽(@iharadaisuke)ですが、最近読んでよかったなと思ったノンフィクション本のレビューです。
田崎健太著「真説・長州力 1951−2015」。昭和のプロレスを引きずる長年のプロレスファン、必読の書です。それどころか、滑舌悪いキャラで愉快に扱われているような、長州力をバラエティ番組でしか見たことないという人にも、ぜひ読んでいただきたい。
『真説・長州力 1951-2015』は、居酒屋の隅っこでひとりで酒を飲んでいる長州力(著者は一緒に酒を飲みつつ取材している)から始まります。誰にも声をかけられないようにひっそりと。
そこにやってくるアントニオ猪木。たまたま同じ酒場に居合わせた。猪木に挨拶に行く長州力。その後猪木は周囲の客にこたえるように「1、2、3、ダーッ」とやって帰っていく。一方、同じ空間にいつつも、黙々と、著者である田崎健太の取材に答えている――そんな場面から始まります。
まさにプロレスの陰と陽。場に花を咲かせる猪木と、場に溶け込み押し黙る長州。
そこには、最近テレビで「滑舌悪い芸人」みたいな扱いを受けている彼の姿はない。
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まるで映画「レスラー」を見ているような……
そんなまえがきで始まっているのだから、私は本屋でふと手に取り、立ち読みし、そこまで読むとすぐレジに持って行きました。
『真説・長州力』と銘打ってありますが、これは長州力の伝記ではありません。
田崎さんが長州力を取材し、過去の話を聞き、そして長州力に関係するプロレスラーや、プロレスラーになる前のアマレス選手時代の関係者に長州力本人についての話を聞く。
これは長州力というひとりのプロレスラーを軸とし、日本のプロレス界全体を俯瞰して綴るプロレス史。
プロレス史の中で有名なあの事件、この事件。それが長州本人から、関係者から、裏をとるように淡々と事実が描かれていく。
デビュー前のアマレス選手としての栄光から、プロに転向してからのデビュー、海外修行、噛ませ犬発言、ジャパンプロレス、UWFムーブメント、UWFインターナショナルとの対抗戦、大仁田厚との電流爆破マッチ……
そうした事件や事実が、長州力の周囲の証言によって掘り下げられていく。
そんな長州力の事を語るレスラーや元レスラー、関係者は、100%協力的な姿勢ではありません。中には「おまえ、あんな奴の伝記書こうとしてるのか!?」と凄まれたと書かれているほど、長州憎し、というスタンスでまくしたてられた長州力への悪口も詳細に記してあります。もちろんそれが誰の発言なのかも書かれています。
決して、長州力という人物を伝記的に、美談としてまとめている本ではありません。あらゆる証言を元に、プロレスとは何か? が書かれている本。それが『真説・長州力 1951-2015』。
ただ、残念ながら、長州力というプロレスラー像、彼が活躍した時代のプロレスを補完する大事な人物として、何度取材を申し込んでも話を聞かせてもらえない元レスラーが数人いて、逆に悪しざまに長州力を語るあの「元レスラー」すら単純な感情の問題なんだろうなと笑っちゃうくらい。
本文にはその取材拒否元レスラーの名前も、きちんと明言されています。彼らと長州力の間にはどんな複雑な事情が絡んでいるのか……と、プロレスの裏側の奥深さ、情念渦巻く背景を思い知ったような気がします。
きらびやかな今のプロレスが好きな人、そんな今のプロレスについて行けない昭和のプロレスファン、長州力をテレビタレントとしか知らない方。「長州力」をよく知るマニアから、その名前を聞いたことがあるというレベルの初心者まで、「プロレス」というものがよくわかるスポーツノンフィクション・ドキュメント。
読んで損なしです。
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