- 2015年10月21日21:00
法廷画家・榎本よしたかのエッセイコミック「トコノクボ」で学ぶ、クリエイターなら実践すべきたった2つの事
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漫画原作者の猪原賽です。知人のイラストレーターさんがコミックエッセイの文庫本を上梓。こちら「トコノクボ くじけない心の描き方」は、榎本よしたかさんの半生を綴ったものですが、私が常日頃思い、口にしていなかった事を、彼自身が“行動”で示していたので、これを機会に言っておこうと思います。
★「トコノクボ」って?
マイナビ出版より発行された、マイナビ文庫「トコノクボ くじけない心の描き方」。
これはもともと、榎本よしたかさんが自身の公式サイトで連載していたWEBマンガ。
イラストレーター・法廷画家としても仕事は多い榎本さんは、テレビ出演も多く、法廷画家としてのインタビューだけでなく、ロックマン4のボスキャラコンテストで入賞した記念品「ゴールドカセット」を携え、テレビ東京「何でも鑑定団」にも出演した事もある方。(私はむしろそちらで先に知っていたw)
そんな彼の、イラストレーター、夫、親になるまでの半生を綴った「ボクのこと」を描いた半生記。(「トコノクボ」という聞き慣れない単語は、その逆読みだ!)
現在も「トコノクボ」を独立させたブログで無料で本編を読むことが出来ますが、この一連の連載が電子書籍限定の本となり、さらにそれも好評だということで、リアルに文庫本として発売された……WEBコミック→コミックスという最近のWEBマンガの美しい着地点を得た作品でもあります。
もちろん文庫化にあたって加筆分も多く、ブログで既読の方にも損はさせない仕様です。
★榎本さん、リア充だぜ
何度か私自身も榎本さんと会い、酒も飲み、話をした仲ではありますが、会話やお見かけするFBへの投稿の端々からにじみ出る、リア充感。イラストレーターとして仕事(※)は多く、プライベートも充実している様子は、底辺マンガ原作者の私にとってはまぶし過ぎた……!(※らばQやゑのげのサイトイラストが榎本さんの仕事です。見たことありますよね?)
ですが「トコノクボ」を読めば、そんな榎本さんも、これまで順風満帆だったわけではなく、むしろ幼少期から底辺と言っていい家庭環境だったとわかります。そこから現在のリア充感や仕事の多さを手に入れるまで、何をして来たか……ということも。
★這い上がる為に必要な2つのポイントを実践
榎本さんの父は絵に描いたような酒乱で、失礼ながら正直家庭は劣悪だったと言っていいと思います。事実、父親は借金を遺して早くに亡くなり、その借金や要介護の祖母を抱えて、榎本さんは若くして家庭を支える身となります。一度は会社員になりましたが、イラストレーターの夢を諦めず、退社。しかしいきなりイラストレーターとして働き、一家の大黒柱を支えられるのか……
支えるんです! なんとしても営業して!
和歌山出身の榎本さんは、上京前、仕事の多い東京にわざわざ出向いて営業周りしてるんですよ。お金が無くとも、営業しなければ仕事がないわけで、そこはムリをしてでも、名刺やポートフォリオを持って何社もハシゴ営業する。その結果、やっと仕事を得ていた。
しかしさらに榎本さんは、父の借金に加え別の身内の借金を抱えてしまう……!
金がなければ更に働いて稼げばいいんです!
「大量に受注し、大量に制作する!」
「イラストのクオリティを上げる鍛錬などは日常的にしていて『当たり前』」
スピードアップのために「無駄は無いか? 動線は最短か?」「机や棚のレイアウトはベストか?」
……「営業」と「スピード(効率)」。
榎本さんがイラストレーターという職業で稼ぐために狙ったポイントはこの2つ。
冒頭私は常日頃言いたいけど言えなかった事があると書きました。まさにこれです。「営業」と「スピード(効率)」。
「努力」? 「鍛錬」? そんなのはしてて当たり前。榎本さんは本編の余談として、サラッと「油絵を学び、絵画教室の講師をし」たとも書いています。なんてこった、強過ぎるこの人。
★クリエイターはもっと営業していい
SNS――Twitterやpixivなど、または公式サイトでよく見かけるとある文言が私、いつも「何だかな〜」と疑問だったんですよね。例えば、こう。
誰かを晒しあげると角が立つので、自分のTwitterアカウントでわかりやすく解説すると、これ。
「お仕事ください」? 「募集中」?
アホか、誰が仕事なんかくれるもんか。仕事なんつうもんは自分でもぎ取るもんなんだよ。
営業しろ営業。持ち込みしろ出版社に。自分がどんな事出来るか直接アピールしろ。じゃなかったら知らねえクリエイターにいきなり大事な仕事、任すわけねえだろ。
★スピードと量産が“商業”
アマチュアで、趣味の範囲なら勝手にのっそりやってていいですよ。締め切りもないですしね。私は以前ネットラジオに出演、「クリエイターに必要な事」として「納期を守る事」とお話しました。
最近、新人のマンガ家さんと話す機会もあります。新作を作るのあたって、担当編集さんと生きのいい新人はいないか? と相談したりします。
ですが、そこで聞かれる言葉は「あまりページ数描こうとしない作家さんばかりで……」という愚痴。曰く、自分で全て描きたいから、クオリティを保ちたいから、増産したくないから、いい返事だとしても「ショート枠なら……」と言われるそうですよ。
そんなんずっと年に2回薄い本作ってろよ! という話です。
マンガなんてページ数いっぱいこなして、週刊は2ヶ月に1冊、月刊でもせめて半年に1冊コミックスを出してやっと商売になるんですよ。
商売として立ち行くペースで、毎週・毎月の納期を守る。クオリティを保つ、なんて事はそれを守らない理由にならない。榎本さんはそれをサラッと描いてるし、実践して来た人なんです。
榎本さんの場合はイラストレーターであり、私の属するマンガ業界とは若干違うところもあるかもしれませんが、「トコノクボ」に記されているイラストレーターとしてメシを食っていく、家族を養っていくための秘訣「営業」と「スピード(能率)」。
これは家具職人として会社員経験のある榎本さんだからこそ、「コスト意識」として気づき実践しているのかもしれませんが、ほんと「イラストレーター・マンガ家」を目指すんなら、絶対忘れちゃいけないポイントです。これが出来なきゃアマチュアですよ。
★フリーランスは身体が資本、息抜きも大事
……とは言え、納期を守り、量をこなした結果、身体を壊して仕事が出来なくなるのは本末転倒。さすがの榎本さんでも、心身ともに満身創痍。ちょっとした休養をとるつもりで思い立った海外一人旅。初の海外・タイ旅行で運命的な出会いをします。
それが今の奥様。当時、同じく一人旅をする女子大生。
親の介護、借金……青春時代の無かった榎本さんにはまぶし過ぎた、一人旅の女子大生。
ですが実は、彼女は「彼氏にフラれ自殺場所を探しに来た」子で、あまりにつらすぎる人生を送って来た(そして今もなお生きている)榎本さんは何とかそれを止めようとし、仲良くなり、日本に帰ってお付き合いするようになり……
なんてドラマを掴むんだこの人www
★リア充なりに、それは努力の結果である
そんな彼女と結婚し、新しい住まいに引っ越し、「トコノクボ」本編は一旦終了。その後、生まれた娘のこと、お亡くなりになった義父のこと……番外編と描き下ろしを含めた、イラストレーター・榎本よしたかさんの半生記。それがこちらの文庫本として現在、書店に並んでおります。
今、活躍するご本人を目の前にすると、リア充感眩しくてクラクラすることもあるのですが、そこに至るまでは理由があり、努力があった。それは私の常日頃クリエイターに対して思い、自分も心がけたい「営業とスピード」の実践があった。
若くて上手い新人が「営業」することで、自分の立場が脅かされるのでは……? というネガティブな悩みに夜も眠れない……。そんな「立場」もわきまえ、現在の立ち位置にも満足せず、たゆまぬ努力を続けている。
「トコノクボ」を読んで、改めて榎本さんに尊敬の念を抱いた。ということで、単純なエッセイコミックとしても、クリエイターの矜持を育てる人生の教科書としても、私は「トコノクボ」を推薦図書といたします。
ぜひ書店にて、お探しください。マンガコーナーではなく、マイナビ文庫の棚にあります。マイナビ文庫はまだ点数が少ないので、書店員さんに尋ねると確実に見つかるかと思います。
榎本よしたかイラストサイト:Yoshitaka Works
http://yoshitakaworks.com/
コミックエッセイブログ トコノクボ
http://tokonokubo.blog.fc2.com/
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