- 2015年09月07日12:00
相原コージ『Z〜ゼット〜』ロメロ・ゾンビを“日本の漫画”ならではの味付けで煽る恐怖
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相原コージ先生のゾンビマンガ『Z〜ゼット〜』全3巻一気読みレビューです。
(ここから先、引用画像はKindle版からのキャプチャ、画像処理をしています。画像クリック・タップすることでKindle版まとめ買いに飛びます。)
オムニバスで描かれるゾンビ世界
「ゾンビ」を扱うメディア作品は数多いが、現在日本人が多く持つ「ゾンビ」のイメージは、映画監督ジョージ・A・ロメロの『ナイト・オブ・ザ・リビングデッド』が基本になっていると言っていいでしょう。
相原コージ著『Z〜ゼット〜』は、ロメロ・ゾンビを基本的に踏襲したゾンビマンガ。
近未来、謎のウイルスによりゾンビが発生してしまった日本。
- 発生初期
- 発生中期
- 発生後期
薙刀1本でゾンビに立ち向かう女子高生「凛子」達こそ、作品中で唯一“軸”として描かれていますが、基本的には「発生初期・中期・後期」における人間模様が散りばめられ、『Z〜ゼット〜』の世界のゾンビパニックを俯瞰して眺められる構図。
ギャグ漫画家だからこそ描く“主人公”になれない一般人の悲哀
好きだった女の子がゾンビ化し、自宅に監禁する男。
密室に閉じこもり、救出を待ちながら小さな「社会」を形成する5人。
ゾンビ化する自分を映像に残そうとする映像監督。
死体がすべてゾンビ化するので、殺人事件が成り立たない世界。
「犯罪者」は自分の欲望のまま行動する。
「ゾンビ」に強く立ち向かい、生きる希望を求める「凛子」というのが、本来はゾンビマンガの主人公たるべきだろうが、全世界的なパニックが起きている状況に、様々なキャラクターが「発生初期・中期・後期」におけるそれぞれの<人生>を送っている。
これはブルース・リーのライダースーツを身に纏い、ゾンビを徒手空拳で倒す事を生きがいにしている格闘技マニア。相手がゾンビとは言え、“人間”を対象にした実践格闘術で闘う彼は、ゾンビ犬の急襲には間抜けなミスを犯し……
作者は相原コージ先生。ギャグマンガ家です。特にシモネタや人間に悲哀を描いた『コージ苑』で定評のあるマンガ家さんですから、ゾンビ現象に襲われたホラーな世界観であっても、笑ってしまうシチュエーションや人間性を、ある時は突き抜けてアホに、ある時は突き抜けてシビアに、<神>の視点で俯瞰し描くスタイル。
その他、親子心中を図った父が、息子を殺した後自分だけ死に切れない姿や、ニコ動(的な映像配信サービス)を使って自殺中継をする少女等、イマドキの世相を反映したキャラも、何の救いもなく、世界観を補完するためだけに死んでいく。
一方、何も起こりえない、井戸の中のゾンビ。たった数コマで「1年後――」「10年後――」と、彼(?)の変わらない日常を描写するのも、『コージ苑』の相原先生ならではの哀しく、乾いた笑い。
細かくザッピングするように描かれたそれら「相原ゾンビ」の世界は、これまであった「ゾンビもの」と呼ばれる映画やマンガに比べ、極めて“マンガ的”なアプローチで、ヒーローではない一般人達の反応や行動を描き、身近な喜怒哀楽に満ちた作品になっていると思います。
だが……怖い!「相原ゾンビ」は死なない!
そんな笑いと哀しさを描くオムニバス形式のゾンビマンガである『Z〜ゼット〜』。しかし、これまでのゾンビものには無かった「怖さ」がひっそり仕込まれています。
まず、ロメロが創り出した「ゾンビ像」をもう一度確認してみます。
- 蘇った死者であること
- 生者の肉を食らう
- ゾンビに噛まれた者は死んでゾンビになる
- 脳を破壊されると死ぬ
相原コージ先生は、その4つ目のルール「脳を破壊されると死ぬ」という1点だけを採用せず、指一本でさえ「ゾンビ」として活動し、生者を襲うという「相原ゾンビ」を『Z〜ゼット〜』の世界観で描いています。
「脳を破壊されても死なない」
と言うのは、相原先生のが「あとがき」に曰く、「既に死んでいる存在がもう一度死ぬというのは納得がいかない」からだそうで……
「死なないゾンビ」は海に流れ、魚についばまれ、海の食物連鎖そのものを「ゾンビウイルス」で汚染。魚は死に、ゾンビ化し、
動物もゾンビ化。魚も肉も一切食えなくなる人類。
先程「10年後――」と描かれた井戸の中のゾンビは、井戸の中でウロウロするだけですが、果たしてその外の世界は……と考えると冷や汗が出ること必至。文明社会は残っているのか……。
そうした「ゾンビウイルス」の原因は、「TK電力」のせいだ、というウワサが蔓延し、
自家発電で篭って小さな平和を守っているTK電力の寮は、ゾンビではなく、パニックを起こした人間によって襲われる。
果たして人類は、凛子は……それは、『Z〜ゼット〜』全3巻を読んでのお楽しみ。
3冊ですからサクッと読めるのは、90分という短い尺のホラー映画にも似て、その点は良かったと、相原コージ先生自ら3巻のあとがきでおっしゃっています。
<余談>出版不況も…怖い!

相原コージ先生の『Z〜ゼット〜』、なんと映画化しております。3巻の「あとがき」によれば、相原作品で初の「映画化」。以下、「あとがき」から少し抜粋します。
自身の著作としては『コージ苑』以来実に25年ぶりに重版がかかり、初めて映画化もされた。
(略)
掲載誌である『別冊漫画ゴラク』の休刊が決定し、本作も終了することになった。
(略)
要は大して売れなかったのだ。映画の公開に合わせて出した2巻めは重版もかからなかった。それが現実だ。
◆『ガンロック』第2巻以降の発売は現状未定です(その経緯や謝意とお詫び)
私自身、連載マンガのコミックスが売れず、続刊の予定も未定のまま打ち切りになった作家のひとり。
相原先生のこの「あとがき」が一番怖かった。
え、『ムジナ』って増版かかんなかったの? 全9巻もあるのに?
相原コージ先生の『Z〜ゼット〜』、ぜひお買い求めを。
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