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あなたの暮らしのためになる(?)漫画原作者・猪原賽が発信する中央線ライフブログ

  • 18:00

<Project Itoh>アニメ化目前!伊藤計劃・円城塔『屍者の帝国』レビュー

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「Project Itoh」として続々劇場アニメ化が予定されている故・伊藤計劃の作品群のひとつ『屍者の帝国』。伊藤計劃氏の未完の対策を、円城塔氏が引き継いで書籍化された、異例の作品ですが……とても面白かったのです。


『虐殺器官』『Harmony』……当然読んでおります。

しかし『屍者の帝国』においては、やはりどうしても伊藤氏本人ではない手が多く加わっている事で、やや二の足を踏んでいましたが……杞憂でしたね。

ガンロック(1) [ 猪原賽 ]
ガンロック(1) [ 猪原賽 ]

私自身、『ガンロック』という亜流シャーロック・ホームズ作品で、ホームズ・ワトソンコンビを近未来SF・スチームパンクとして描いている身。『屍者の帝国』はワトソンがホームズに出会う前、とある機関のエージェントとして活躍する、純粋スチームパンクの様相があるということで、意識をせざるを得なかった。何かの参考になるかもしれない……と「参考資料」「勉強」のつもりで、やっと買って読んだという経緯があったのですが、結果的には「くやしい」。こんな面白い作品を遺した伊藤計劃に。引き継いで仕上げた円城塔氏に、身の丈以上の嫉妬や羨望、舌を巻く思いがないまぜです。

屍者の帝国 (河出文庫)
伊藤 計劃 円城 塔
河出書房新社
売り上げランキング: 18,686

こちらは、表紙がアニメ映画化されるにあたってのイメージビジュアルカバーに切り替わったもの。

ネタバレにならないようにかいつまんで説明すれば、“死体蘇生技術”――死体を『屍者』として人為的に扱え、労働力とする事が可能になった19世紀末。
ジョン・ワトソンはイギリスの秘密組織「ウォルシンガム機関」のエージェントとして、自意識を持つ最初の“屍者”『ザ・ワン』と、『ザ・ワン』を生む技術が書かれた謎の書物『ヴィクターの手記』を追う旅に出る――という物語。

“死体蘇生技術”によって、我々の知る19世紀末とは違う歴史を紡ぐ時間軸において、しかし我々がよく知る人物を脇役に、ワトソンが密命を帯びて旅する世界は、アフガニスタン、日本、アメリカ……

私のデタラメな『ガンロック』とはまったく違う、保守本流のスチームパンクとしての面白み、
そして昨今人気の1ジャンルとしての「ゾンビもの」に、新しい“設定”を持ち込んだ世界観。
死体蘇生技術の物語の基本としての「フランケンシュタイン」等のゴシック・ホラーの“昏さ”を味付けに。

“ゾンビ”と言うにはあまりに従順な「屍者」の有り様や、単純な労働力に留まらない、人間の欲望や好奇心の受け皿としての「屍者」の扱われ方は、舞台となる時代・世界観にマッチする「悪趣味」が見え隠れし、それが伊藤計劃氏のプロットにあるものか、円城塔氏の創作によるものか……

もちろん純粋「伊藤計劃Ver.」の『屍者の帝国』は永遠にみることの出来ない作品ですが、カメオ出演するあの人、この人……。手堅く読者の期待を煽り、その気持ちを着地させている本作品は、円城塔氏の手腕を素直に賞賛したいと思います。
  • ゾンビものが好きなら
  • SFが好きなら
  • ゴシック・ホラーが好きなら
  • スチームパンクが好きなら
  • 19世紀末の世界史が好きなら
  • 幕末・明治初期の日本史好きなら
  • ホームズ・ワトソンが好きなら
  • そして、伊藤計劃作品が好きなら
様々なフックがあり、全方位から満足させる一冊。

屍者の帝国 (河出文庫)
伊藤 計劃 円城 塔
河出書房新社
売り上げランキング: 18,686

屍者の帝国 (河出文庫) 』オススメです。

ついでに、近未来SFスチームパンク・ホームズ譚『ガンロック』も買っていただけたら、私はうれしい。(笑)

iharadaisuke.com


ガンロック(1) [ 猪原賽 ]
ガンロック(1) [ 猪原賽・横島一 ]