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あなたの暮らしのためになる(?)漫画原作者・猪原賽が発信する中央線ライフブログ

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『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』感想。70年代ヒッツで贈る80年代スペースオペラの美学【寄稿・映画レビュー】

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マーベルコミックスの中で、余り知られていない作品は、実はとても多い。
ちょっと思い出して欲しい。

あなたはマーベルヒーローズを映画公開前に知っていただろうか?

『スパイダーマン』は知る人も多い。
『X-MEN』なら邦訳版コミックスが出ているので映画公開前に知っていた人も多い筈。
『ハルク』や『キャプテン・アメリカ』になると、姿や名前は知っていても、どんなキャラクターなのかはアメコミ好きでもない限り知らなかっただろう。

『ファンタスティック・フォー』や『マイティー・ソー』ならどうだろう?
知っていたら、かなりアメコミ好きだ。

そもそも『ゴーストライダー』と『ブレイド』がマーベルコミックスだった事を知っていただろうか?
『デアデビル』とか『パニッシャー』って誰?
これが日本人のほとんどの認知度だろう。

『アイアンマン』に至っては、映画公開当時の読者は全世界に20,000人しかいなかったほどマイナーなキャラクターだった。

この『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』は、更にマイナーで、発行部数はアイアンマンよりも少ない。誰も知らない作品のひとつだ。

Guardians of the Galaxy Volume 3: Guardians Disassembled (Marvel Now)
『ガーディアンズ・オブ・ザ・ギャラクシー』は、1969年に始まった、宇宙船を舞台にした冒険活劇で、その名の通り銀河の平和を護るヒーローたちの物語だ。

しかしそのメンバーも、長い年月を経て、ほとんどが入れ替わっている。
今回映画化されたのは、1969年のオリジナルメンバーではなく、2009年から始まったばかりの、エピソード0とも言うべき新シリーズを映画化したものである。



個性的なアウトローたちが、銀河の平和を護る為に立ち上がり、チームを結成する様は『七人の侍』から始まり『荒野の七人』などへと、連綿と続く西部劇のスタイルに則っている。
また、80年代SF映画の多くは西部劇をベースにしている。『スターウォーズ』は西部劇のスタイルを。『スター・トレック』は開拓精神をフィーチャーしたものなのだ。

この映画でも、80年代の時代観を細部まで再現し、まるで当時に製作された作品のように仕上がっている。

さて、まず最初に目を引くのは主人公が後生大事に持つSONYのカセット・ウォークマンだ。(←しかも第一号機!)1979年に発売されたヒット商品で、誰もが憧れるアイテムとなった。

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Sony Japan公式サイトより転載)

コレはiPodなどに引き継がれる「音楽を持ち歩く発想」の原点である。

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Sony Japan公式サイトより転載)

更にヘッドホンは1980年に発売された同じくSONY のMDR-5a。
鮮やかなSONYオレンジが眩しいスポンジ・オープンエア・ヘッドホンだ。
音漏れガンガンだが、ウォークマンの名の通り、外の音も程よく聞こえ、散歩に丁度よく、広がりのある心地良いサウンドが楽しめる。

発売当時のお値段は、ちょっぴり高めの8000円。(今は映画の効果もあり、プレミアが付いて、とんでもない事になっているぞ!)数年使えばたちまち劣化してしまうスポンジ・イヤーパッドを26年間どうやって維持していたのかは分からないが、きっと未知のテクノロジーがあるのであろう。そもそもウォークマンの電池とかは?w


ま、そんな事はさて置き、劇中、そのウォークマンから流れるその音楽は、心情風景にリンクしつつ、思わずのけ反るサイコーにナウい、ゴキゲンなナンバーなのだ!(☜80年代的表現)
映画館から出たら思わずiTunesで“Awesome Mix Vol.1”をポチってしまった!そんなわけで、まずは曲の紹介をしてみよう!


Amazonで買える『Awesome Mix Vol.1』。カセットのデザインだがMP3ダウンロード版


冒頭で流れるのは、1975年に発表された英国のバンド10ccの孤独な恋心を美しく歌った“I'm Not in Love” だ。バックに流れる幻想的なコーラスは、シンセコーラスの様に聴こえるが、当時は勿論シンセサイザーはない。サンプラーに至っては1980年にフェアライトCMIが登場するまで存在しなかった。あのサウンドは、メンバー3人の歌声をテープで多重録音を繰り返し、気の遠くなるようなアナログテープ編集で作られたサウンドなのだ。
詳しくは、日本のミュージシャンたちが、その手法を完全再現した動画を見つけたので、貼っておくのでチェックして頂きたい。


10cc I'm Not in Love 完全再現レコーディング



【メイキング映像】

このサウンドは、のちに80年代に登場するシンセサイザーへ、大きな影響を与えたのは容易に想像がつくだろう。「愛しているわけじゃない」と強がる歌詞と、孤独な少年の心が見事にリンクした選曲に、冒頭から涙腺がゆるんでしまう。(なぜかiTunesには「愛ゆえに」との邦題が付いているが、10ccの「愛ゆえに」は“The Things We Do For Love” (1976)の邦題。iTunesが間違っているので気をつけよう)

続いて、主人公が小動物をマイクにして踊り狂うファンキーなシーン(☜問題アリw)で流れるのは、Redboneの“Come and Get Your Love”だ。

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Kotakuより転載)

思わず♫ぴーひゃら ぴーひゃら ぱっぱぱらら〜♪と歌いたくなるこの曲は、BBクイーンの「踊るポンポコリン」の元ネタとして有名だ。当時はファンクと呼ばれたジャンルで、スローファンクの代表曲である。「悩んでないで、僕と愛し合おうよ」という歌詞は、少年の頃の悩みはどこへやら。立派なチャラい男に成長したピーターの姿にピッタリだ(笑)

予告でも印象的に使われていた「ウガチャカ・ウガ・ウガ」でお馴染みのあの曲は、1974年に発表されたBlue Swedeの「ウガチャカ“Hooked on a Feeling”」。タランティーノの『レザボア・ドッグス』でも使われ90年代にも話題になった。

ピーターとガモーラのちょっとイイ雰囲気のシーンではBishopの「愛に狂って“Fooled Around and Fall in Love”」が流れる。
80年代ディスコのチークタイム定番曲で、プレイボーイの恋心を歌っている。もう、チャラくて軽い軟派なヤツが、女を口説くのに最高の曲だ。
チークダンスの曲を聴きながら、踊るの踊らないのとやってる姿は、当時のディスコでは、よくある光景だったに違いないw
『フットルース』の話をしている時に、あえて『フットルース』の曲を流さないのもニクい演出だ。

その他、Marvin GayeやDavid Bowie、The Jackson5など、70年代を代表するミュージシャンの定番曲からマニアックな曲まで、サントラ “Awesome Mix Vol.1”はポチる価値あり!

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なんとサントラはアナログ盤LPレコードでも発売予定。ジャケットデザインはカセットだけど。

全12曲46分テープにピッタリ収まる親切設計。ノバ刑務所の看守も、思わず頭を揺らすサイコーのオムニバス・アルバムなのである。まさに究極の玉手箱だ!(☜80年代的表現)

人間ドラマを70年代ポップスで表現し、戦いやスペクタクルシーンでは劇伴を当てる音楽の使い分けが、とてもユニークである。

そんな多様な音楽に合わせて、映像にも注目だ。カラフルな宇宙船に、伝統的なコスチューム、そして真空や絶対零度は無視!息さえ止めればOKのエーテルに満ちた宇宙空間!ビジュアルまでが80年代SF映画なのだ。

80年代SF映画の特徴としては、先日、感想を寄稿した『ホドロフスキーのDUNE』からのインスピレーションをふんだんに取り入れている点だ。
メビウスがデザインしたようなロングコート風のコスチュームやヘルメットなど、一部、奇抜な髪型も取り入れており、当時の作品の雰囲気を前面に出しているのがわかる。

『スターウォーズ』などでも見られる、惑星によって景色をガラリと変えるのも『DUNE』からのインスピレーションを受けた伝統的手法だ。

また、ロケットが賞金首を捕まえる時に放つ電撃の表現に、80年代映画の代表的な放電エフェクトを使用している。

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(※こんな感じの放電エフェクト。)
「古い手だが、まだ使える」と言うロケットのセリフは、古い映像エフェクトの手法にかけているのだろう。

また、特筆すべきは『ホドロフスキーのDUNE』に参加していた、Sci-Fi画家のクリス・フォスが、宇宙船のデザインで参加している点だ。
彼は、70年代にSF小説の表紙などのアートを手がけた画家で、多くの映画で宇宙船をデザインし、カラフルで独創的なシルエットに定評がある。
もうこの映画は『DUNE』の映像化と言っても差し支えないレベルかもしれない。

それは、90年代に流行った有機的な未知のテクノロジーではなく、噴射口を持ってたら取り敢えず飛ぶぜ!という哲学で創られたスペースクラフトなのである。
彼をデザイナーとして起用するからには、監督の意図が垣間見られる。明らかなデザインの違いは、各惑星のテクノロジーの違いを表すと同時に、その船がどの勢力に所属しているのかが一目でわかる。両軍入り乱れての空中戦では、そのデザインの真価が活きてくる。

主人公が乗り込むミラノ・スターシップは、スポーツカーのようなブルーにオレンジのカラーリングが、たまらなくカッコイイ! かつて僕らをワクワクさせた、プラモデルのボックスアートのようではないか!

だが、オイラが最も心を掴まれたのは、ノヴァ・コープスのスターブラスターだ。星型の機体は、ノヴァ・コープスのシンボルをかたどっており、正義の象徴である。
まるでノヴァ・コープスの、精神が形になったようではないか!
(「ノヴァ軍」と、訳されていたがノヴァ・コープスは軍ではない。銀河の秩序を守る誇り高き宇宙警察である)

クライマックスで見せる彼らの闘いは、ムネアツだ!もう、コイツのプラモデル作りたい!作りながら、この造形美を心ゆくまで愛でたいっ!何処かのメーカーさん!本気でプラモデル作って下さい!お願いします!

ああ。こんなに楽しいスペースアドベンチャーは久振りだ。
この映画は70年代のテイストかと思われるかも知れないが、この映画は紛れもなく80年代の美学で作られている。

あの当時、レコードが発売していきなりヒットする事は稀で、発売からジワジワと売り上げを伸ばしてランク入りするのが普通だった。
一度ヒットすると翌年も、その翌年も聞き続けられた。
80年代に、10年前にリリースされた曲を古いと言ったり、懐かしんだりはしなかった。どこでも耳にする馴染みの定番曲だったのである。
よって、1988年の少年が、70年代ヒッツをカセットに入れて聴いているのは、ごく普通の事だった。特に子供は流行は追わず、好きな曲を聴き続けるものだ。
そういう点からも、この映画が80年代を見事に現していると言えるだろう。80年代は70年代に生まれた文化が花開いた時代なのだ。

アメリカが最も元気だった時代…。そんな時代の雰囲気を感じて、元気を貰える映画であった。まさに80年代、スペースオペラと呼ばれた冒険活劇譚の再来である。シリーズ化を視野に入れた作品だけに、今後の展開が気になるところだ。コミックス本編では、マイティー・ソーやアイアンマンたちと共闘してたりするから侮れない。次回作への期待も、必然的に膨らみ、想像を掻き立てられる。

だが、その中でもオイラが最も楽しみにしているのは“Awesome Mix Vol.2”の選曲だ(笑)
今から買う気満々である♪

[※この記事は「まじさんの映画自由研究ノート」mazy_3から寄稿いただき、猪原が編集し掲載するものです。]

まじさんの映画研究ノート
http://ameblo.jp/mazy3/