- 2014年08月11日12:00
『オール・ユー・ニード・イズ・キル』感想。くだらない戦争を笑い飛ばせ!【寄稿・映画レビュー】
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トムが死んだ!トムが死んだ!トムがまた死んだ!そしてトムが死んだ!トムがおっ死んだ!トムが死にまくる!またトムが死ぬ!あられもない姿でトムが死ぬ!
滅多に見られない、トム・クルーズが死ぬシーンを何度も見られる貴重な映画だ。
死ぬことでタイムリープを繰り返す、タイムループで同じ戦場を繰り返す悪夢のような状況を、スター俳優トム・クルーズが体当たりで演じる。
原作では新兵だが、トムが今更新兵を演じるのは不自然だ。そこで改変された設定だが、これがまた、見事にトムの新しい一面を引き出しているのも面白い。
戦場にも行かずに、口先だけで少佐にまでのし上がった男が、最前線に送られると言われ、見苦しい言い逃れをしている。挙句の果ては上官を脅迫する始末。そんな主人公が、戦場で何度も死に、死ぬ度に成長して行くのが実に魅力的である。
また、他の俳優たちの演技にも注目だ。『プラダを着た悪魔』で、イヤミな先輩役のエミリー・ブラントが、実に逞しく成長している。今回もトムクルーズの先輩役だ。
同じ時間を繰り返すため、少しずつ違う同じシーンを何度も演じる事になる。
ここアメリカ生まれの生粋のメソッド俳優が得意とする、アドリブの見せ所である。微妙なシチュエーションの違いを作り、何度も自由に演技をさせる事で、目覚めのシーンが生まれたに違いない。
同じ設定の演技をしている中で、トムだけが毎回違う反応をするため、周りの俳優もトムに合わせて演技が変わってくるのはアドリブに長けた俳優でなくてはならない。俳優たちも、その演技が活き活きとしている事から、楽しんで演じていただろう。
アメリカ映画のリアリズムがなせる技である。
だが、この映画にはリアリズムの中にも様式性がある。
出て来ただけで軍曹とわかる男の表現や、ケツ丸出しの男。男勝りの女兵士やでっぷり太った将軍などなど、戦争映画ではお馴染みの様式化されたキャラクターばかりだ。
様式的なキャラクターが便利なのは、登場人物に説明描写がいらない所だ。リタの部隊の兵士たちが被るヘルメットは、人気ゲーム『コール・オブ・デューティ ゴースト』に出てくる様なスカル柄が描かれている。
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死神をイメージさせる事で、彼らが地獄の様な戦場から帰還した兵士であり、腕の立つ歴戦の勇者である事が一目で分かる。
登場人物全てを、いちいちこの人はどんな人物なのかを説明していたら、本編に入る前に映画が終わってしまう。説明不要の定番キャラクターを様式性で見せるのも、アメリカ映画の魅力のひとつでもある。
もちろん4DXで鑑賞した!まさに4DX向きの作品だ。メカメカしい機動ジャケットを纏い、ガッチャンガッチャン振り回される感覚や、飛び散る水しぶき、戦場の焦げた匂い、風を受ける空気感など、臨場感がたっぷりと味わえる。ブルブル震えるマシンガンの振動も楽しい、アトラクション映画だ。
■東京に初上陸した体感型シアター「4DX」で『オール・ユー・ニード・イズ・キル』観て来た【ネタバレ無し】
日本のライトノベルが原作だが、舞台を日本の架空の島から、ヨーロッパに置き換えている所も面白い。
ヴェルダンと言う地名は、第一次世界大戦の重要な戦場のひとつで、長きに渡り攻防が繰り返された。泥沼化した消耗戦となったこの戦場は「ヴェルダン=地獄」と言う意味でも使われた時代がある。
凄惨な戦場から生きて帰った英雄と言う意味で付けられたリタの二つ名「ヴェルダンの女神」は、過去の彼女の活躍を我々に想像させる。
また、本編で何度も同じ戦場を繰り返すビーチは、第二次世界大戦で、ヨーロッパを征圧していたナチス・ドイツへの反抗作戦で、最大の要となった、ノルマンディのオマハ・ビーチである。
この映画では、未知の侵略者「ギタイ」にナチス・ドイツを置き換えているのも面白い。ここでも徹底的に戦争映画の様式性を用いているのである。
ゲーム感覚でリセットされ、死の恐怖を排除したテンポのいい演出で、見事な娯楽作品として仕上げている。だが、決して戦争を賛美している訳ではない。
むしろその逆で、人は戦争で、いかにあっけなく、時にはいかに下らない理由で死ぬのかを、ユーモアたっぷりに見せているのである。
この映画は、一人の男の死を、何度も何度も見せる事で、戦争の愚かさを笑い飛ばしているのだ。
敵に殺される。敵と同士討ちになる。墜落して来た僚機の下敷きになる。訓練中に死ぬ。車に轢かれる…などなど、スター俳優が戦場で何度もあっけなく死ぬのである。
主人公が英雄になって終わる、アメリカ映画のよくある定石を取らない事でも、この映画は戦争の下らなさを訴えているのがわかる。原作で描かれている何度も訪れる、死の恐怖のを削ぎ落とした事で、作品の本質がより鮮明になり、テーマが見えやすくなったテキストレディの好例と言えるだろう。
人の死を笑うのは不謹慎だとか、人の死の恐怖を描かないのはダメだとかの批判的なレビューも読んだが、オイラはそうは思わない。
戦争映画で人の死を笑うのは、決して不謹慎ではない。戦争を笑い飛ばす事が、この映画の持つ大切なテーマなのである。
[※この記事は「まじさんの映画自由研究ノート」mazy_3から寄稿いただき、猪原が編集し掲載するものです。]
まじさんの映画研究ノート
http://ameblo.jp/mazy3/
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