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あなたの暮らしのためになる(?)漫画原作者・猪原賽が発信する中央線ライフブログ

  • 22:00

『ホドロフスキーのDUNE』感想。勇気が感染する映画。【寄稿・映画レビュー】

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映画『ホドロフスキーのDUNE』劇場用パンフレット
何て事だ!
映画製作における失敗と挫折の話だと思っていたら、
事もあろうにアレハンドロ・ホドロフスキーは勝ち誇っていた!



完成していれば、映画の歴史が変わったと言われる、世界で最も有名な未完の大作『DUNE』。これはそれを巡るドキュメンタリーである。
完成していれば…と僻み、資金が集まらなかった当時の不遇さを嘆くグチっぽい映画かと思っていたが、とんでもない!
84歳の老人が、当時の事をエネルギッシュに語る『DUNE』への情熱は、20代の青年よりも熱い!
300歳まで生きたいと語るホドロフスキーは、本当に死にそうもないw


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フランク・ハーバートの「デューン/砂の惑星」は、今でも聖典と呼ばれるSF小説で、最も影響力を持つ作品の一つだ。
中でも有名なのは砂漠に生息する巨大なミミズの様なモンスター“サンドウォーム”である。SF作品だけでなくファンタジー作品、ゲームなどにも登場し、その影響力を知る事ができる。
「デューン」は、何度も映像化が企画されたが、常に残念な結果となる事から、呪われた企画としても有名である。

時代は『2001年宇宙の旅』が公開され、興奮冷めやらぬ1975年。
時代はSF映画創世記である。
『スターウォーズ』公開よりも前に『DUNE』は、ホドロフスキーの独自の解釈による画期的なSF映画が誕生しようとしていた。

観るドラッグを作りたい
人の価値観を変える映画にする

彼をはそんな思いで製作にとりかかった。
そして『DUNE』を撮る為に、最高のスタッフ=「魂の戦士」を招集する。
このドキュメンタリーの魅力の一つは、仲間を集める過程にある。
メビウス、H.R.ギーガー、ミック・ジャガー、ピンクフロイド、ダン・オバノン、クリス・フォス、サルバドール・ダリ、オーソン・ウェルズ……
錚々たる顔ぶれも去る事ながら、半数以上は、映画の経験が少ない者たちだった。
ホドロフスキーは、映画の経験よりも、才能を選んだ。
彼が、個々の才能を見抜く天才であった事がよくわかる。
また、彼らを仲間に引き入れた、ホドロフスキーの口説きのテクニックも見事なものだ。相手の好みや行動を調べ上げ、あらゆる手段を使い勧誘していく。
極上のマリファナを使った荒業には爆笑してしまった。

だが、誰彼構わず勧誘する訳ではない。『2001年宇宙の旅』を手掛け世界最高の特殊効果マンと言われたダグラス・トランブルを「お前は魂の戦士ではない!」一蹴してしまうエピソードなどは爽快である。

結局この映画は撮影されず、中止となったのではあるが、企画自体に大きな意味をなしており、映画製作におけるプリプロダクションの過程を垣間見られる貴重な映画となっている。


このドキュメンタリーでは、『DUNE』が与えたその後の映画への影響を紹介しているが、ここで、魂の戦士たちのその後を詳しく紹介してみよう。
 
『DUNE』特殊効果をやる筈だったダン・オバノンは、一本のSFホラー作品の脚本を書き上げた。
その映画化の際に『DUNE』で知り合った同志を監督リドリー・スコットに紹介。
モンスター・デザインにH.R.ギーガー。
宇宙船デザインにクリス・フォス。
衣装デザインにメビウス(クレジットは本名のジャン・ジロー)を起用し、映画史に残る名作『エイリアン』が誕生したのだ。
そして『エイリアン』はシリーズ化し、新人監督の登竜門的映画となった。

 オバノンは更にその後『ゾンゲリア』『スペースバンパイヤ』などのホラー脚本を書き、『バタリアン』では監督を務めた。
そしてフィリップ・K・ディックの短編「追憶売ります」を原作に、『DUNE』のテーマの一つでもある“テラフォーミング”を取り入れた壮大なSF冒険活劇を書き上げる。
この『トータル・リコール』は多くの監督が映画化を熱望し、映画史上最高額の脚本となり、脚本家としての成功を収めた。

メビウスが描いたストーリーボードは、『スターウォーズ』『コンタクト』『マトリックス』など、多くの映画に影響を与え、今でもその片鱗を見る事ができる。
ホドロフスキーとは親交は続け、二人で組んで『DUNE』を基にした『アンカル』シリーズを発表。
更に二人の作品は『猫の目』『天使の爪』など、いくつも発表している。
映画では『トロン』の衣装デザインで参加。その後も『ウィロー』『アビス』『フィフス・エレメント』など、多くのコンセプトデザインを手がけた。

クリス・フォスは、日本ではメジャーではないが、熱狂的ファンがいる程の偉大なSci-Fi画家である。
SF小説の表紙などが有名で、映画では『フラッシュ・ゴードン』のロケットサイクルのデザインを担当。『スーパーマン』ではクリプトン星のコンセプトアートなどを手掛けている。
『宇宙空母ギャラクティカ』でもその名を知られている。
また2014年公開が予定されているマーベルコミック映画『ガーディアン・オブ・ギャラクシー』でも、宇宙船をデザインしている。

ギーガーが描いた「ハルコンネン男爵の城」が『プロメテウス』のピラミッドのデザインに似ている事は映画でも語られているが、日本のオーディオメーカーのCMに登場していた事は余り知られていない。


ある意味『DUNE』の唯一の映像と言えるかも知れない。

公開されていたら映画の歴史を変えたと言われた『DUNE』は、撮ってもないのに歴史を変えていた。

『DUNE』の企画は崩壊したがその破片は種となって世界中に降り注ぎ、花開いたのだ。
映画は連鎖する。
『DUNE』は『エイリアン』を産み、後世のSF映画に影響を与えた。
そして『ホドロフスキーのDUNE』もまた、新しい映画を生み出した。
『ホドロフスキーのDUNE』の監督は、ホドロフスキーとプロデューサーのミッシェル・セドゥーに会い、『DUNE』の企画を中止して以来35年間、二人が会っていない事を知った。
二人は長年、お互いが自分の事を恨んでいると誤解していたのだ。
だが、ホドロフスキーは恨んではいなかったし、セドゥーは自分のオフィスに『DUNE』のアートを誇らしげに貼り続けていたと言う。
ちょっと気まずかっただけなのだ。
このドキュメンタリーによって二人は再会を果たし、それがきっかけになり、ホドロフスキーの最新作『リアリティのダンス』が撮られたのだ。

映画『リアリティのダンス』劇場用パンフレット

こうして映画が映画を産み、連鎖を続け作られて行くのである。

この映画におけるホドロフスキーの発言の数々も魅力である。
熱い語りで、グイグイ引き込まれる。おかしな事を言っているのに説得力があったりするから侮れない。
次から次へとホドロフスキー語録が炸裂し、失敗する事の大切さを解く。とても勇気付けられた。
この映画を見たら、是非お気に入りのセリフを探して欲しい。

ホドロフスキーは「人生の目的とは、魂を昇華させる事」と解くのだが、オイラは困った事に、この映画で「原作XXX改変」が、誉め言葉へと昇華してしまった。
どうやら、まんまとホドロフスキーに、価値観を変えられてしまったようだ。


『ホドロフスキーのDUNE』予告映像


[※この記事は「まじさんの映画自由研究ノート」mazy_3から寄稿いただき、猪原が編集し掲載するものです。]

まじさんの映画研究ノート
http://ameblo.jp/mazy3/


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