- 2014年02月15日19:00
ラノベの下読みさんもびっくり!?マンガにおける”三点リーダー”について考えてみた(小学館と講談社のローカルルール)
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水島新司先生のライフワークとも言える『あぶさん』が連載終了。41年にも渡る長期連載、これは読まなくてはと久しぶりに「ビッグコミックオリジナル」を買いました。
もちろん『あぶさん』に関するコメント、感想、思い……ないわけでもないですが、ここで書いておきたいことがあります。
それが「三点リーダー」問題。(ネット上の話題としてはやや遅い話題ではありますがw)
■”ラノベ新人賞応募作の10人に1人は、いまだに三点リーダーの使い方が間違っていて、下読みが爆笑している - Togetterまとめ ”他――はてブから
これはラノベのトピックスでした。
多方面からツッコミが入っていたようですが、私は三点リーダーについて、マンガの方面から考えてみます。
小学館コミックのローカルルール
『あぶさん』の最終回を見てみます。
「ビッグコミックオリジナル」は小学館の雑誌です。
小学館のマンガの特徴と言えば、セリフに必ず句読点が入る点。
見てのとおりワカ先生と景浦安武のセリフは、
「つべこべ言わんと飲めーーっ。」
「は、はい。」
と、句読点込みで表記されています。
これはおそらく小学館でしか見られないルール。一部の例外を除いて小学館で刊行されているマンガでは、句読点が必ず付されています。
一部の例外というのは、私が把握しているものでは、ちばてつや先生の作品。
『のたり松太郎』や近年「ビッグコミック」で発表した読み切り作品では、セリフに句読点は無かったはずです。
しかしそうした例外を除いて、小学館のマンガではセリフに句読点があるのが基本ルール。『あぶさん』最終回が掲載されている号の、福本伸行先生の『新黒沢最強伝説』を見てみましょう。
「失きモノに。」
「失ったのは、」
「彼の方だ。」
と、こちらもセリフに句読点が入っています。
ただし、福本先生の場合はこの句読点は、『新黒沢』でも『最強伝説黒沢』でもあまり見かけることがありません。それは……
「邪魔されてたまるか!」
「ここからが本番…」
「け…警察!」
と、文末を三点リーダー【…】やエクスクラメーションマーク【!】が代わりに多用されています。
そのおかげで、句読点はセリフに余り現れない。
「悪いが、」
「オレは今…」
「警察なんかに捕まっている場合じゃねぇんだ…」
正直、私はマンガのセリフで句読点が入っている事に、かなり違和感を持っています。
もう一度『あぶさん』を見てください。
「つべこべ言わんと飲めーーっ。」
これ、ワカ先生が叫んでいるのに、「。」で終わってるので妙にテンションが一段ダウンする感じがしませんか?
セリフがひとつひとつきちんと終わってしまい、次のセリフへのテンションが維持できない感じがするんです。
これどうなの? と、実は小学館の編集者に尋ねた事があります。
「現場(編集部)でも、句読点があることに違和感を持っている者は多い。が……上のほうがどうしても(付けてくれ)と、外すことが出来ない」
と、曖昧な言い方でスルーされました。
で、『新黒沢』に戻りますが、というか『最強伝説黒沢』ですが、連載開始初期は「…」「!」の文末は今ほど多くなかったと記憶しています。
これは、小学館で仕事を始めた福本伸行先生が、セリフの句読点に違和感を感じ、「…」「!」をセリフに加える事で句読点を排除するちょっとした抵抗であり、対策なのでは? と私は邪推しています。
今週の『カイジ』(講談社・ヤングマガジン)を見てみましょう。
「W・DOWNだった奴は」
「骨身に染みてる」
「そんな奴がここで虎の子のUPカードを」
「安々と出すわけない!」
『新黒沢』とのテーマ、テンションの差あれど、例えば『新黒沢』にこのセリフがもし出ていたら……
「奴は、」→「奴は…」
「染みてる。」→「染みてる!」
「UPカードを、」→「UPカードを…」
と小学館が句読点を付けそうな部分を、福本先生は三点リーダーとエクスクラメーションマークで対策するのではないか? と私は想像するのです。
講談社コミックのローカルルール
ここで、話題は小学館から講談社のローカルルールに移行しますよ?
当然、句読点関係なく、福本先生は『カイジ』においても三点リーダーとエクスクラメーションマークは多用しています。
再び今週の『カイジ』から。
「見え見えのブラフ!」
「ここ2回‥」
「うすら笑いの皮一枚下‥」
「降りろ‥‥と!」
見ておわかりでしょうか。
実は講談社は三点リーダーを絶対使いません。
三点リーダーの代わりに使われるのは「二点リーダー」です。
【追記】
「講談社」というのは言い過ぎでした。確認した限り週刊少年マガジン、月刊少年マガジン、ヤングマガジン3誌だけがなぜか二点リーダーを使っています。
モーニングやアフタヌーン、別冊マガジンは三点リーダーを使っていました。
「三点リーダーを使っていないラノベ投稿作に爆笑している下読みさん」もびっくりの講談社ローカルルール。それが「講談社の三点リーダー排除→二点リーダー独占市場」。
ただし、小学館と同様、一部の例外はあります。
今回の『カイジ』が掲載されているヤングマガジン今週号だけ見ても、
『××× HOLiC・戻』(CLAMP)
『喧嘩稼業』(木多康昭)
この2作品だけはセリフに「二点リーダー」ではなく「三点リーダー」が使用されています。
しかしそれが、共に元々は講談社で活躍していた作家ではない・他社から移籍して来た作家であることは興味深いですね。
といった例外あれど、講談社は「三点リーダー」ではなく「二点リーダー」を使うローカルルールがある。
これに関しては講談社で仕事をしていた折には編集者に訊く事はなかったのですが、私は小学館の「句読点」と同じくらい、なぜそこまでローカルルールが徹底しているのか不思議で仕方ありません。
ただ、なんとなくですけど、こうなんじゃないかなぁという想像はしています。
「月刊マガジン」連載の『修羅の門 第弐門』第一巻を見てもらいましょう。
「九十九が」
「還って‥‥き‥た」
「本当の陸奥九十九なのかしら‥ね」
「まさか‥‥そっくりさんだとでも?」
「そう‥あれは九十九君よ」
川原正敏先生は特にセリフに「‥」を多用する作家さんだと思います。
そこから思うに、なんですけど。
『修羅の門 第弐門』の画像の二点リーダー部分を、三点リーダーに置き換えてみました。
特に三点リーダーを多用する川原正敏作品ということで顕著にわかると思うんですが、なんかセリフが窮屈に見えませんか?
講談社はこうしたセリフの字間が詰まって見える三点リーダーを、二点リーダーに代えることで、セリフを読みやすくしているのでは?
というのが私の想像です。
(本当のところを知っている方がいらっしゃったら教えてください。)
で、ラノベの三点リーダーについて
小学館の句読点ローカルルールからの、福本先生の三点リーダー多用説。
講談社の二点リーダーローカルルール。
どちらも私の想像の域を超えないものですが、皆さんもこれまでマンガを読んで別に気にならなかったはずです。……セリフに三点リーダーが単体で現れても。
「…」にせよ「‥」にせよ、
「……」にせよ「‥‥」にせよ、
どれもセリフの間を取るために使用されている、「てん」。
小説や文章で暗黙のルールとされている「三点リーダーは重ねて使う」は、マンガにおいては当てはまらない。
で、最前のニュースに戻ります。
■”ラノベ新人賞応募作の10人に1人は、いまだに三点リーダーの使い方が間違っていて、下読みが爆笑している - Togetterまとめ ”他――はてブから
むしろ小説という体裁ながらマンガと同列に語られることの多いライトノベルのことですから、「三点リーダーの使い方が間違っていると笑っている下読みさん」は、笑ってる場合じゃないと思うんですよね。
暗黙のルール上間違っていても、むしろマンガのセリフ的な効果としての表現方法としてはアリなんじゃないかなーとも思いましたし、逆にマンガに慣れ親しんでいる世代なら何の違和感も持たないんじゃないかとも思います。
それが意図的にせよ、単純な無知にせよ、ですよ?
ラ イトノベルには今や見開きいっぱいの叫び声や、空白を表すまっさらで何も書かれていないページといった表現方法があるほか、文字の級数(大きさ)を変え る、なんていうのはそれこそラノベ黎明期から「ビジュアルとしての文字表現」を実験して来た場だからこその表現方法とも言えます。
私 自身の事を言えば、マンガのセリフを長年作って来た身としても、「…」と「……」には文字1つ分の「間」の違いがありますよ。その微妙なニュアンスの差が あるからこそ、マンガのセリフで「…」と「……」、それどころか「………………………………………………」なんてセリフも書くのです。
マンガを一言一句、1コマ1コマをそのまま文字化小説化する、なんてメディア展開は普通有り得ませんが、もしそんな事が実現した場合、
「…」と「……」のニュアンス、「間」というものを、単純に「三点リーダーは2つ重ねるルール」だからと一様に「……」と修正されたら、私はかなり怒りますよ?
そして、しかしそれがルールなのだと小説側の人間が笑うのならば、それは文字でしか表現出来ない小説という表現スタイルを、自ら制限して余計狭めているのだなと悲しく思います。
むしろ実験場であり、大きな市場を持つライトノベルだからこそ、「三点リーダー」の数なんかにこだわらない、むしろこだわった結果ビジュアル的な「間」を持つ文字表現として、ありうる姿なんじゃないかと思うんですけど、いかがでしょうか?
余談
二点リーダーの講談社ルールはマンガのセリフに限ることかと思いきや、『修羅の門 第弐門』の川原正敏先生のあとがきの文章も二点リーダーだ。
川原先生、間、タメ過ぎです!w
(この記事は賽の目記ポータルより転載・再掲載しました。)