- 2012年10月01日21:00
現役弁理士による著作権法改正についての雑感
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著作権法が改正され(以降、単に法改正と言います。)、2012年10月1日から、違法ダウンロードが刑事罰化されます。ネット界隈においては、戦々恐々とされている方も多いのではないでしょうか。
以下、雑感という形ではありますが、知的財産業界に身を置く者としての一意見を記させてください。
・違法ダウンロードが刑事罰化されるが、親告罪なので、警察がやりたい放題できるわけではない。
親告罪というのは、単純に言うと、被害を受けた人が訴えなければ罪にならないことです。
被害を受けた人、というのは、ここで言うと権利者ですね。
ダウンロード対象が音楽ファイルの場合、レコード会社やJASRAC等が権利者に該当します。
つまり、レコード会社やJASRACがガチ切れして裁判所に訴えなければ、違法ダウンロードしても刑事罰には問われません。
ちまちまダウンロードしている者をいちいち訴えるほど、権利者達は暇ではないと思います。
そもそもダウンロードしている者を叩くより、アップロードしている者を叩く方が、音楽ファイルの拡散を根本から断つのに効果的です。
そのため、毎日数100Gバイトとかダウンロードしていて音楽ファイルや動画が手に入るたびに喜びを感じている廃人のように「明らかに訴えてください」という誘い受けの人以外は、普通にネット生活を送ると良いと思います。
ただ、違法ダウンロードと名が付く通り、違法であることには変わりがありません。
そのため、上記のような廃人にとっては、権利者から損害賠償請求の訴訟を提起されることも否定できません。
なお、違法ダウンロードの刑事罰化については、著作権法第119条第3項に規定されています。
(以下、抜粋)
第119条
3 第三十条第一項に定める私的使用の目的をもつて、有償著作物等(録音され、又は録画された著作物又は実演等(著作権又は著作隣接権の目的となつているものに限る。)であつて、有償で公衆に提供され、又は提示されているもの(その提供又は提示が著作権又は著作隣接権を侵害しないものに限る。)をいう。)の著作権又は著作隣接権を侵害する自動公衆送信(国外で行われる自動公衆送信であつて、国内で行われたとしたならば著作権又は著作隣接権の侵害となるべきものを含む。)を受信して行うデジタル方式の録音又は録画を、自らその事実を知りながら行つて著作権又は著作隣接権を侵害した者は、二年以下の懲役若しくは二百万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。
そして、同法第123条で、著作権法第119条第3項は、親告罪とされています。
(以下、抜粋)
第123条 第百十九条、第百二十条の二第三号及び第四号、第百二十一条の二並びに前条第一項の罪は、告訴がなければ公訴を提起することができない。
・将来の話
その一方で、今回の法改正では違法ダウンロードは親告罪ですが、将来の法改正において非親告罪化する可能性もあります。
個人的には、こうなると警察の自発的な介入を許してしまうので、色々めんどくさいことが起きそうに感じます。
行政の手法として、真綿で首を絞めていくようにじわじわと態勢を整えていくという手法は、良くも悪くも常套手段です。
今後、違法ダウンロードが非親告罪化すると考えるところではあるのですが、今回は、法改正と共に、以下の附帯決議が成されています。
・著作権法の一部を改正する法律案に対する附帯決議
政府及び関係者は、本法の施行に当たり、次の事項について特段の配慮をすべきである。
(略)
3)違法なインターネット配信等による音楽・映像を違法と知りながら録音・録画することの防止の重要性に対する理解を深めるための啓発等の措置を講ずるに当たって、国および地方公共団体は、有償著作物等を公衆に提供し、または提示する事業者と連携協力を図り、より効果的な方法により啓発等を進めること。
4)有償著作物等を公衆に提供し、または提示する事業者は、インターネット利用者が違法なインターネット配信等から、音楽・映像を違法と知りながら録音・録画することを防止するための措置を講ずるように努めること。
5)著作権法の運用に当たっては、犯罪構成要件に該当しない者が不当な不利益を被らないようにすることが肝要であり、とりわけ第119条第3項の規定の運用に当たっては、警察の捜査権の濫用や、インターネットを利用した行為の不当な制限につながらないよう配慮すること。
(略)
この附帯決議については、各専門家で見解が分かれるところですが、個人的には、ポジティブな心証を抱いています。つまり、警察無双が将来行われる可能性は少ないと感じています。
確かに、附帯決議には強制力がありません。とはいえ、ここに記載してあることを完全無視して警察無双が可能な状態にするか、というと、個人的には疑問が残ります。
もし私が警察庁(法務省?)のお偉いさんだと、そんな経歴に汚点がのこることはしないと思います。
やるとするならば、非親告罪に向けてじわじわと法整備を積み重ねていく、という感じでしょうか。
一例ではありますが、違法ダウンロードの適用範囲を広げるとか。
(とはいっても、非親告罪化の動きの際には、何らかの反対運動を起こすことが必要になるとは思いますが。)
違法ダウンロードの刑事罰化→警察がー警察がー
というステレオタイプ思想ではなく、著作権、文化審議会、パブリックコメントというキーワードで定期的にググって、一国民としての意見を送付するなり、近所に議員さんや有力者がいるならその人に違法ダウンロードの非親告罪化についての危険性を説明するなりした方が建設的だと思います。
YouTubeやニコニコ動画を見るだけならば違法ダウンロードに該当しないこととか、
音楽ファイル付きメールを開いて音楽ファイルを開いたとしても違法ダウンロードにはならないとか、
その辺りのことはネット界隈のブログの内容の方が詳しいので、
今回は割愛させてください。
・そもそも違法ダウンロードをしない
最後になりますが、「そもそも違法ダウンロードしなければ」何も後ろめたいことはないはずです。
また、ニコニコ動画やiTuneなどのように、手軽な決済で、動画視聴や音楽ファイル入手が可能になっています。
一昔前のように、音楽を聴きたくても直接店に行ってクソ高いCDを買うしかない(又はレンタルするしかない)状況に比べると、良い物を聴くことができた対価として、権利者にお金を払っても良いと感じます。
(CDについては、これだけデフレの世の中になっても、バブル時代のCDの値段と同じ又はそれ以上ですからね。個人的には、音楽業界の営業努力がまだまだ足りないと感じています。)
まあ、なにはともあれ、ネット界隈の善良な皆様にとっては無縁な話ですので、ご安心ください。
万一、違法ダウンロードをしていた人がいたとしても、必ず何らかの警告があるはずです。
それに従っておけば、無難に済みます。
・おまけ
以下、ネット界隈で拾った質問について、私見ですが回答してみます。
Q.昔の番組(もちろんDVDとかになってない)のがうpされたのをみてたとして、急に有料チャンネル(CSとか)で放送されるようになったらそれは違法なの?
→文言通りに法解釈すると違法になります。
ただ、ある時点では違法ダウンロード対象でなかったコンテンツが、ある日を境に違法ダウンロード対象となるのには違和感を覚えます。
その一方で、個人的見解としては、昔の番組が大ブレイクして超金稼ぎコンテンツにならない限り、権利者は目くじらを立てないと思います。
そのため、ダウンロードする人がダメージを食らうことはないと思います。
Q.違法ファイルとわかって、それをSkyDriveなりGoogleDocsに移動して、公開は 自分だけにして視聴するのはどうですか?
→違法ダウンロードは、自動公衆送信を受信してダウンロードすることを指すので、SkyDriveやGoogleDocsに移動する前のダウンロード段階でアウトだと思います。
仮に、直接それらにファイルを移動させたとしても、実質的にダウンロードに該当するのではと思います。
Q.放送直後のTV番組は今まで通りダウンしてもOKなんだよね?
→少なくともダウンロードする分には、違法ではありません。言わずもがな、アップロードする人はアウトです。
Q.視聴のみなら確実に安全という名目が得られるまであらゆるサイトに繋がないのがベストですか?グレーゾーンのままでは恐すぎます
→違法ダウンロードをそもそも行わなければ、心配ありません。
法の網をかいくぐるように、ぬれぎぬを着せるような事態が起こったとしても、大抵、法趣旨を考慮して、裁判官が妥当な判断を下します。
そもそも、微罪逮捕でしょっ引かれかねない重要人物でなければ、警察は気にも留めないと思います。
※.この記事は都内で働いている現役弁理士の方に執筆していただきました。
著作権法入門